「マードックからの最後の手紙」は、20世紀初頭に建造された豪華客船タイタニック号の一等航海士として、運行責任者を任されていたウィリアム・マクマスター・マードックにスポットをあてて描かれた、樽屋雅徳氏の人気吹奏楽作品です。
下記は作曲者樽屋雅徳によるライナーノーツです。
1912年4月、世界最大の豪華客船として、ニューヨークへ向け出航したタイタニック号は、その処女航海を終えることなく、海の底へと沈んでいきました。マードックは、タイタニック号に乗船していた1等航海士であり、船が沈む最後の瞬間まで勇敢に乗客の救出にあたった、乗組員の一人です。
彼は、航海中家族に手紙を書くのが日課であり、そこには自分の近況はもちろん、家族を気遣う思いが必ず綴られていました。
そんなマードックからの「最後の手紙」には、乗客達で賑わう船上の様子や大西洋からの美しい眺め、そして事故を予感させるアクシデントについて、語られていたかもしれません。
曲はその手紙をアイリッシュ調のメロディーで綴っていきます。
マードックからの最後の手紙を「読む」ように聴いていただけたらと思います。
(樽屋雅徳)
1500人以上の死者を出したタイタニック号の悲劇については、世界最悪の海難事故として映画化されるなど、世界的に知られるところとなりました。
映画の中で描かれたマードック航海士は、救命ボートに乗せる作業中に身勝手な乗客を威嚇しようとして射殺してしまい、自身も自殺するというなんとも悲劇的な最後を遂げていますが、史実は定かではありません。
ただ、勤勉家で家族思いだったとされるマードック氏は、きっと乗客救出のために最後まで懸命に務めたはずだと信じずにはいられません。
樽屋雅徳「マードックからの最後の手紙」
さて、早速楽譜をご紹介していきましょう。
現在、「マードックからの最後の手紙」は、通常版(原典版)・特別版・小編成版の3つの版がレンタル譜として出版されています。
「演奏したいけど、どれを選べばいいの?」という悩まれている方も多いのではないでしょうか。
では、それぞれの版について比較していきます。
![]() |
マードックからの最後の手紙2009年5月に出版された原典版。 ●吹奏楽●レンタル譜●中編成(34人〜)●グレード3+ |
![]() |
マードックからの最後の手紙(特別版)2010年、花咲徳栄高校の委嘱により改訂。コンクール自由曲として演奏されました。 ●吹奏楽●レンタル譜●中編成(35人〜)●グレード4 |
![]() |
マードックからの最後の手紙(小編成版)小編成版を望む声が多く、編成を大幅に減らしたオーケストレーションで最低21人で演奏できるように改訂。 ●吹奏楽●レンタル譜●小編成(21人〜)●グレード3+ |
楽器編成による違い
まずは編成表を見てみましょう。
通常版 | 特別版 | 小編成版 | |
---|---|---|---|
パート数 | 34 | 35 | 21 |
木管 | Piccolo | Piccolo | Piccolo (Flute 2) |
Flute 1 | Flute 1 | Flute 1 | |
Flute 2 | Flute 2 | - | |
Oboe | Oboe | - | |
Bassoon | Bassoon | - | |
Eb Clarinet | Eb Clarinet | - | |
Bb Clarinet 1 | Bb Clarinet 1 | Bb Clarinet 1 | |
Bb Clarinet 2 | Bb Clarinet 2 | Bb Clarinet 2 | |
Bb Clarinet 3 | Bb Clarinet 3 | - | |
Bass Clarinet | Bass Clarinet | Bass Clarinet | |
Alto Saxophone 1 | Alto Saxophone 1 | Alto Saxophone 1 | |
Alto Saxophone 2 | Alto Saxophone 2 | Alto Saxophone 2 | |
Tenor Saxophone | Tenor Saxophone | Tenor Saxophone | |
Baritone Saxophone | Baritone Saxophone | Baritone Saxophone | |
金管 | Trumpet 1 | Trumpet 1 | Trumpet 1 |
Trumpet 2 | Trumpet 2 | Trumpet 2 | |
Trumpet 3 | Trumpet 3 | - | |
Horn 1 | Horn 1 | Horn 1 | |
Horn 2 | Horn 2 | Horn 2 | |
Horn 3 | Horn 3 | - | |
Horn 4 | Horn 4 | - | |
Trombone 1 | Trombone 1 | Trombone 1 | |
Trombone 2 | Trombone 2 | Trombone 2 | |
Trombone 3 | Trombone 3 | - | |
Euphonium (div.) | Euphonium (div.) | Euphonium | |
Tuba | Tuba | Tuba | |
String Bass | String Bass | - | |
打楽器 | Timpani | Timpani | Timpani |
Percussion 1 (Triangle, Crash Cymbals, Suspended Cymbal, Glockenspiel) |
Percussion 1 (Triangle, Crash Cymbals, Suspended Cymbal, Glockenspiel) |
Percussion 1 (Triangle, Cymbals, Bodhran* or Tenor Drum, Glockenspiel) |
|
Percussion 2 (Bass Drum, Bodhran*) |
Percussion 2 (Bass Drum, Bodhran*) |
Percussion 2 (Bass Drum, Tambourine, Ships Bell, 4Tom-toms, Snare Drum, Vibraphone) |
|
Percussion 3 (Tambourine, Ships Bell, Tom-toms, Snare Drum, Crash Cymbals) |
Percussion 3 (Vibraphone, Bass Drum, Glockenspiel) |
- | |
Percussion 4 (Vibraphone, Bass Drum, Glockenspiel) |
Percussion 4 (Tambourine, Ships Bell, Tom-toms, Snare Drum, Crash Cymbals) |
- | |
その他 | Piano | Harp | Piano |
- | Piano | - |
通常版
特別版
通常版と特別版は、ハープが加えられていること以外については特に大きな編成の違いはありません。打楽器について配置の変更はありますが、使用楽器はほぼ変わりません。大編成でハープも使用できるというバンドには特別版をオススメしています。
小編成版
小編成版についてはご覧の通り、ダブルリードがなく管楽器についてもほぼ2パートに抑えられるなど、大幅に編成を縮小していますが、演奏効果については通常版と遜色のないよう作曲家自身かなり配慮して書かれていますので、小編成バンドにはこちらがオススメです。
ピアノについては、通常版、特別版、小編成版いずれも重要な役割をしていますので、奏者が必要となります。
構成の違い
通常版と小編成版について、構成の違いはありません。
特別版には通常版、小編成版にはない部分が加筆されています。
通常版 | 特別版 | 小編成版 | |
---|---|---|---|
小節数 | 172 | 187 | 172 |
演奏時間の目安 | 8分30秒 | 9分20秒 | 8分30秒 |
それでは、通常版と特別版の違いを比較してみます。
通常版と特別版の違い
冒頭から小節番号78小節目までは通常版、特別版ともに同じ構成です。
特別版79小節目から、通常版とは異なる内容となっています。
尚、通常版では、練習番号「J」から転調がありますが、特別版にはありません。
スコアを見てみましょう。
通常版(77小節目〜)
特別版(79小節目〜)
次に、練習番号「K」(通常版98小節目、特別版109小節目)から「N」3小節目は、オーケストレーションに若干の変更はありますが、通常版と特別版ともに同じ構成です。
スコアを見てみましょう。
通常版(97小節目〜)
特別版(109小節目〜)
そして、練習番号「N」4小節目(特別版138小節目)から4小節間に、通常版にはない木管のアンサンブルが入り、練習番号「O」(通常版127小節目、特別版142小節目)から同じ構成になり終わりまで進行します。
通常版(127小節目〜)
特別版(138小節目〜)
いかがでしたでしょうか?
特別版は通常版に比べ、中間部のテンポの速い部分が難しくなっているため、グレードも若干高くなっていますので、そのあたりも考慮して選んでいただければと思います。
通常版と小編成版の違い
前述の通り、小編成版については大幅に編成を縮小しているため通常版とオーケストレーションは異なります。
特にダブルリードのないバンドにはこちらがオススメです。
尚、練習番号「P」から通常版ではオーボエソロになっていますが、小編成版ではアルトサックスに変更となっています。
その他、ソロパートに変更はありません。
通常版(P)
小編成版(P)
参考音源
以上、スコアを比較しながら見てまいりましたが、演奏を聞いていただければ、より明確に違いを感じていただけるのではないかと思います。
それぞれの収録されたCDをご紹介しますので、是非参考にしてみて下さい。
通常版収録
![]() |
「メキシコの祭り/ヴィジョンズ・オブ・ライト」土気シビックW.O. Vol.13土気シビックウインドオーケストラ cond. 加養浩幸 |
特別版収録
![]() |
コンクール自由曲ベストアルバム3 「マードックからの最後の手紙/マ・メール・ロワ」海上自衛隊東京音楽隊 cond. 河邊一彦、加養浩幸
|
小編成版収録
![]() |
20人のコンクールレパートリーVol.1「アトラス〜夢への地図」土気シビックウインドオーケストラ cond. 加養浩幸
|
編集後記「マードックからの最後の手紙」徹底解説、いかがだったでしょうか?少しでも選曲のお役に立てば幸いです。その他質問などもお気軽にどうぞ。 |