ストームワークス･チャプターV∞: ライティング･オン･ザ･ウォール [吹奏楽CD]

ストームワークス･チャプターV∞: ライティング･オン･ザ･ウォール

【演奏】航空自衛隊航空中央音楽隊、鈴木理恵子（ヴァイオリン）、外囿祥一郎（ユーフォニアム）、オールド・ドミニョン大学・シェナンドー大学合同合唱団

　「ゴッドスピード!」「アメリカの騎士」「プラトンの洞窟からの脱出」などで日本の吹奏楽界に旋風を巻き起こしているメリロは、これまでアメリカに始まり、ドイツ、オランダ、イタリアと世界各地の吹奏楽団を指揮して自作の録音を行ってきました。今回約1年の準備期間を経て2005年5月に初来日し、かねてから希望していた日本での録音を敢行しました。そしてその演奏として白羽の矢が立ったのが、東京都立川市の航空自衛隊立川基地内に本拠地を置く航空自衛隊航空中央音楽隊です。

　1961年に静岡県浜松市で結成され、1964年に現在の東京都立川市に移駐した航空自衛隊航空中央音楽隊は、日本全国を活動範囲として国家行事、国際イベントへの参加や定期演奏会等のコンサート活動を精力的に行っており、その演奏回数は年間約100回にものぼります。1999年6月から7月にかけて、ワシントンD.C.とカナダのハリファックスで自衛隊音楽隊として初となる海外演奏を行いましたが、このCDは航空自衛隊航空中央音楽隊にとっての海外デビュー盤となります。

　この録音では、航空自衛隊航空中央音楽隊のメンバーに北部、中部、西部の各航空音楽隊隊員の応援を加えた66名編成の吹奏楽に、琴、尺八、ピアノ、チェレスタ、シンセサイザー、打楽器の客演奏者を迎え、アメリカからはオールド・ドミニョン大学合唱団とシェナンドー大学合唱団のメンバー約70名が参加しています。さらにレコーディング・エンジニアとしてオランダからBMCやホベリンなどの吹奏楽のレコーディングも数多く手がけているレックス・ファン・ディーペンJr.を招き、日米欧の協力の下にこのCDは制作されました。

　航空自衛隊航空中央音楽隊の第1ホールで、2005年5月12日から19日まで延べ7日間のセッションでCD2枚分にあたる録音が行われました。2枚組として制作されたこのCDのタイトルは「STORMWORKS CHAPTER V∞」、すなわち「STORMWORKS Chapter 5」と「STORMWORKS Chapter 8」のセットになっており、メリロの日本への強い思いが込められた作品7曲が収録されています。

　1枚目の「STORMWORKS Chapter 5」には4曲。

　「武蔵」は東京佼成ウインドオーケストラが2003年10月17日の第78回定期演奏会でダグラス・ボストックの指揮により本邦初演され、また文教大学吹奏楽部によるセッション録音のCD（OSBR-20026）がすでに発売されていますので、お聞きになった方も多いでしょう。吉川英治の「宮本武蔵」や武蔵が残した「五輪書」の英訳などを読み、そこに書かれた武士道の精神に魅せられ深い感銘を受けてこの曲が書き上げられました。ノースイースト・オハイオのペイトリオッツ・シンフォニック・バンドの創設25周年を記念して委嘱され、2003年6月17日に初演されたもので、メリロが音楽で描いた武士道の世界は、メリロらしいカラフルなサウンドに彩られながらも、そこに日本的な響きを強く感じさせるものと言えるでしょう。なお、冒頭で歌われる「愛に出会う日まで」では、スコアにはハープか三味線または琵琶が指定されていますが、この録音では東京佼成ウインドオーケストラの本邦初演時と同様に琴が使われています。

　マサチューセッツ工科大学コンサートバンドの委嘱により、キューバ出身の作曲家アルド・フォルテの体験にインスピレーションを得て作曲された「キューバ」では、航空自衛隊航空中央音楽隊の隊員で日本が世界に誇るユーフォニアム奏者、外囿祥一郎の独奏をフィーチャーし、そのヴィルトゥオーゾを存分に発揮する作品となっています。

　アン・アキコ・マイヤーズのために作曲した「ヴァイオリンと管弦楽のための協奏曲」を、作曲者自身が吹奏楽に書き替えたのがここに収録されている「ヴァイオリン協奏曲」です。諸般の事情から管弦楽版の初演が行われていないため、吹奏楽版によるこの録音がこの曲の世界初演となります。3楽章で30分近い本格的なヴァイオリンのための協奏曲で、その叙情的で美しい作品にメリロの新たな一面を見ることができるのではないでしょうか。この吹奏楽版をまとめるにあたっては、オーケストラの管楽器セクションはほとんどそのままで、弦楽器セクションをシンセサイザーやPADベースを含む第二の管楽器群のために書き直すという手法がとられており、オーケストラにおける管楽器と弦楽器の対比がそのまま2つの管楽器群の対比として活かされています。

　ヴァイオリン独奏の鈴木理恵子は、弱冠23歳で新日本フィルハーモニー交響楽団の副コンサートミストレスに就き、現在は読売日本交響楽団の客員コンサートマスターを務めるとともに、ソリスト、室内楽奏者として多方面で活躍し注目を集めています。鈴木理恵子の繊細さと力強さを併せ持つ豊かな表現力は、メリロのサウンドの光輝と陰影をさらに際だたせ、深みのある音楽を作り出しているようです。

　そして、「STORMWORKS Chapter 5」の最後を飾るのは「時代」。2005年2月6日に明浄学院高校吹奏楽部によって初演されたこの曲は、黒澤明の映画にインスパイアされて書かれたもので、「武蔵」と同様に華麗なサウンドの中にも作曲者の日本に対する深い思い入れが見え隠れします。

　さて、2枚目の「STORMWORKS Chapter 8」にはこのプロジェクトの総決算とも言うべき大作「梯」が収められています。

　この作品は、吹奏楽と合唱による演奏に加え、第二次世界大戦中に放送されたラジオのニュースや軍歌、愛国歌などの音源を素材にコラージュのように組み上げてまとめられた、演奏時間50分を超える音楽ドキュメンタリーです。最後にはアメリカを象徴する「ゴッド・ブレス・アメリカ」と日本を象徴する「ふるさと」が奏でられ、敵として戦った不幸な時代を乗り越え、そのタイトルどおり日米にかけられた梯が締めくくられます。

　もはや吹奏楽作品の枠には収まりきらないこの超大作は、これまでCDとしてリリースされていたメリロの作品をはるかに凌駕します。戦後60年にあたる今年にこそ作り上げたかったという作曲者の強い意志で書き上げられ、作曲者と演奏者、そして日本側のスタッフのコラボレーションによって作り上げられた一大モニュメントとなりました。今回の録音にあたって演奏に自衛隊の音楽隊を選んだのもまさに作曲者の思いに他なりません。

　このCDはこれまでストームワークスからリリースされてきたメリロの吹奏楽作品の参考演奏とはその位置付けは大きく異なるものです。しかしながら、その作品のある一面にしか目を向けられていなかった作曲家メリロの情熱が結晶したものであり、吹奏楽の歴史のページをめくる記念碑的な1枚と言っても過言ではありません。

仕様

収録曲

STORMWORKS CHAPTER V∞: WRITINGS ON THE WALL（2枚組）

Specifications

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