タイトルに添えた“プロメーテウス”(日本語では“プロメテウス”とも表記される)はギリシャ神話に登場する男神である。プロメーテウスは、過酷な自然界での寒さや暗闇に不便を感じる人類を憐れみ、全知全能の神ゼウスの目を盗んで人類に火を与えたが、その火はやがて新たな文明の火として用いられると同時に、多くの争いを生み、殺戮の道具および兵器として使われることとなった。プロメーテウスのその行いに怒ったゼウスは、権力の神クラトスと暴力の神ビアーに命じ、プロメーテウスをカウカソス山の山頂に磔とする刑を与えた。プロメーテウスは不死身であり身体は毎日再生するのであるが、英雄ヘラクレスに解放されるまでの3万年もの間、生きながらにして毎日内蔵を鷲についばまれる苦痛を味わったとされる。
プロメーテウス(Prometheus)のその名はPro(前に)+Metheus(考える者)と捉え、先見的な目を持つ者、あるいは知性の象徴と解釈されることがあり、火の他にも航海術を始め様々な文明を人類に与えたとされる。自己犠牲を厭わず人類の理想を追求するその姿は、「イエス・キリストの原型」とも言われている。
絶対的な権力を持つゼウスに不屈の抵抗を幾度も繰り返したプロメーテウスの伝承は、その後も宗教的な枠組みを超えて、多くの民衆や作家に英雄的な賞賛、霊感や感銘を与え、後世の創作物にも影響を残した。
この作品においては、無情なことに人類に誤った方法で用いられ全ての世を焼き尽くす炎、それに対する知性の神プロメーテウスの心情と精神性が対比として表現されている。天上で禁忌とされている火を与えたプロメーテウスは、人類の諸行を見つめ、毎晩どんなことを感じていたのであろうか。その立ち上る炎と煙は、知性に対する感情の報復、の象徴であったかもしれない。
物事を知性的な言葉でのみ語ることに対して感情を端的に表すことは難しいが、音楽の中に於いてそれを表現することができる人間、あるいはその可能性を信じ知性と感性の両端に立ち挑む人間の一部が、いわば「音楽家」という職業と目されるのかもしれない。私自身は決してプロメーテウスのような英雄的な大業を成し遂げたわけではないが、この作品は、日頃感情をその奥底に溜め込み苦しむ私自身を、身体の自由を奪われ静かに争いの光景を見つめ続けたプロメーテウスの心情に投影した上で生まれた、内面的な音楽となっている。
一人である故に自然と湧き立つ感情と知性の対峙、あるいはその闘争の歴史を見つめながら、我々は明日を生きる意味を見出すのである。(田村修平)
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