この曲は、安土桃山時代から江戸時代初期にかけて活躍した戦国武将、真田幸村(本名は信繁)の夢と情熱を描いた作品です。
その当時の日本は、群雄割拠のまさに戦国時代にあり戦いと動乱の連続でした。織田信長、武田信玄、上杉謙信、徳川家康、北条氏、など強大な支配権と武力を持つ武将達のなかで、信州(今の長野県)上田に本拠を置く真田家は歴史の波に大きく流され、存命をかけた戦いに挑み続けます。特に関が原の合戦では、幸村と父、昌幸は西軍に、兄、伸之は東軍に分かれ戦うという悲惨な運命となります。
東軍の勝利により、幸村、昌幸は高野山へ幽閉され、最後は徳川家康によって滅ぼされます。しかし、二度に亘る徳川上田攻めでの勝利や大阪夏の陣における武勇は、人々に大きな感銘を与えました。家康は幸村の武勇にあやかれと公言、敵ながら天晴れと絶賛し、江戸城内で幸村をほめたたえることを許します。
また、夏の陣でその活躍を目の当たりにした島津家(現在の鹿児島県)の当主は、「真田は日本一の兵(つわもの)。真田の奇策は幾千百。真田を英雄と言わず誰をそう呼ぶのか。彼はそこに現れ、ここに隠れ、火を転じて戦った。鎧(よろい)は赤一色にして、つつじの咲きたるが如し。古今これなき大手柄。」と絶賛しました。敵味方の関係なく彼が慕われるのは、怒涛の宿命に対峙しながらも、常に義(正義)の心を失わなかったからだと言われています。武士の誇りを身を持って体現した幸村は、今も日本人の心の中に生き続けています。
曲は、日本刀の鋭い煌きのようなイントロから、ホルンを中心とした中音楽器で奏されるドラマチックな宿命のモチーフで開始されます。
続くハ短調12/8 拍子のテーマは、運命に翻弄されながらも勇敢に戦い続けた幸村をあらわしたテーマです。経過部を経て、金管群の勇壮なテーマと打楽器群とのコンビネーションで演奏されるニ短調4/4 拍子Presto ma nontroppo は、幸村軍の進軍の様子を表しています。
続く経過部であらわれるフレンチホルン・ソロは、やや音域が高いのですがぜひ挑戦していただきたい部分です。
Andante からの中間部は、真田家の愛と幸村自身の夢を描いた部分です。この後続く戦闘部と対峙する静謐さ、穏やかさ、ひと時の平和や幸福への感謝、見果てぬ夢・・・。
終結部では、宿命のモチーフが祈りのように聞こえてきます。平和な時も束の間、遠くから聞こえるピアノとティンパニーの3連符連打が戦いの時を予感させます。法螺貝により合戦準備が令されると、曲は騎馬戦を表すニ短調6/8 拍子Allegro con brio に突入します。
進軍のテーマをはさみながら壮大に戦闘が展開されますが、幸村のテーマや宿命のモチーフが聞こえてきます。その後、愛のテーマの回想と幸村のテーマを経て、曲はエンディングへと続きます。中間部ではイングリッシュ・ホルンで親密に語られた夢のテーマが、この部分ではトランペットのファンファーレを加え、トゥッティで勇壮に演奏されます。
コーダでは、宿命のモチーフが金管群に長調で現れ、幸村の人生を高らかに讃えます。そしてティンパニーの強奏連打の中、一気に曲を閉じます。
演奏時間に約16分を要しますだけに、持続するパワーが必要ですが、様々な歌心も必要とされる作品となっています。それぞれの部分の音楽的意味を感じ取っていただき、ぜひ楽しんで演奏していただければと願っております。
なおこの作品は、海上自衛隊東京音楽隊2011 年度巡回演奏(関東甲信越地区)のために作曲され、同年5 月28 日( 土)茨城県佐野市文化会館において初演、6 月17 日( 金) 真田家の本拠地、長野県上田市の上田城に隣接する上田市民会館にて再演されました。
宮崎県に生まれる。
大分県立芸術短期大学付属緑ヶ丘高等学校音楽科、武蔵野音楽大学音楽学部器楽科においてクラリネットを専攻。
クラリネットを故千葉 国夫氏に師事。1977年10月から2014年3月まで海上自衛隊音楽隊に在籍し、クラリネット奏者、指揮者として国内外において演奏活動を行った。この間、1990年には、東京藝術大学音楽学部(聴講生)、2003年から2005年には桐朋学園大学音楽学部(指揮研究生)において、指揮法、作曲理論等を学ぶ。2010年3月から2014年3月までの間、海上自衛隊東京音楽隊長として日本各地において演奏活動を行うとともに、国内外吹奏楽作品の録音を積極的に行った。特に「祈り~未来への歌声」(UNIVERSAL CLASSIC & JAZZ UCCY-1032)は、「第55回日本レコード大賞」企画賞、「第28回日本ゴールドディスク大賞」クラシック・アルバム・オブ・ザ・イヤー、「第6回CDショップ大賞」クラシック賞の3冠を受賞。また、本アルバム等による吹奏楽界への貢献から、2014年度「第24回日本管打・吹奏楽学会アカデミー賞」演奏部門を受賞。
作曲家としては、ジャンルにとらわれない歌心あふれた作品を発表し、吹奏楽コンクールやコンサートなどで取り上げられている。特に、「歌と吹奏楽」の融合を意図した「交響組曲 高千穂」第2曲 仏法僧の森、「嵯峨野~ソプラノと吹奏楽のために~」などは吹奏楽の新しい可能性を追求した作品として注目されている。なかでも東日本大震災のために作曲された「祈り a Prayer 」は、ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団、東京ヴィヴァルディ合奏団、ニュージーランドのソプラノ歌手ヘイリー・ウエステンラ等のコンサートでも取り上げられている。
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